SolitOUD

7コース13弦ウード&カマンチェと過ごす穏やかな日常

YouTube も活用したオンラインレッスン体験レポ

 長谷川先生が試験的に導入しているオンラインレッスン、今日は YouTube も使ったレッスンを受けました。方法は先生のブログ「オンラインレッスン~スマホで動画を撮ってYouTubeにアップして先生に聴いてもらおう!」の通り、まず取り組んでいる曲を自分で録画して YouTube に限定公開でアップし、URLを先生に伝えてチェックしていただいた上で Zoom を使った遠隔レッスンという流れです。これを実際に体験した生徒側からのレポをまとめたいと思います。

 

【良かったところ】

事前に一人で動画を撮っておけるので多少気がラクだった

 ただしこれは普段から時々録音する習慣があったから気楽だった可能性が大。「楽器の上達には録音して聴き直すことが大事!」と聞いてギター時代から録音練習していました。

 最初のうちは本当に「なんでー!?」と思うほどガチガチに緊張したものです。誰に聞かせるわけでもない、自分一人の練習のための録音ですら変な意識をしてしまうんですよね。そして何十回もやり直して撮ったものを自分で聞いてまたショックを受ける、みたいな。(笑)

 だから人によっては意外とこれが最難関かも。長谷川先生のように普段からニコニコ穏やかで「今の自分でOK」「つっかえてもOK」って言ってもらえる先生だとぐんとハードルが低くなると思います。

 ちなみに今回2本の動画を上げるのに、どちらも3テイクくらい撮りました。でも結局どちらも一番最初に撮ったものをアップしました。どのテイクにもミスやおかしなところはそれぞれあったんです。でもそれが「今の自分」ですし、「先生に見ていただいて演奏をより良いものにしていく」ことが目的ですからね。「いい動画が撮れないから無理~」なんて尻込みしてしまうのはとーーってももったいないですよ!オンラインレッスン、やってみると本当に楽しいですから。(^^)

 

レッスンがとてもスムーズになった

 先生側としてもあらかじめ撮った動画を細かくチェックでき、適切なアドバイスの用意をしておけるので進行がとてもスムーズでした。教室レッスンでもやっていた2曲を見ていただいて、「あれ、まだかなり時間余ってる?」と感じたほど。事前準備のおかげで内容が濃くなる感じがありました。

 これは先生から求められたものではありませんでしたが、アップした動画の説明欄に自己反省点や自分で気づいたことなどをいくつか書いてみました。「00:00 のコレがうまくできないんです」とか、レッスンで聞きたいことを書いておいてしまうのも良いかもしれませんね。

 

【気になったところ】

(これは YouTube 関係なくオンラインレッスンとしての問題ですが)

音声の遅延問題

 レッスン中でも伝えましたが、こちらが通して弾いている時に先生が画面の向こうで腕を動かして指揮するようなジェスチャーをしたり体をリズムに合わせて揺らしたりこれは NG!! でした。遅延のせいで私が弾いているリズムとは完全にズレて見えてしまうのです。でも直立不動でも審査員みたいで変かもしれないので、軽~く頷いているとか、そのくらいの感じでいかがでしょう。

 同じように会話のキャッチボールにもちょっと慣れが必要ですね。電話のように瞬間的に声が双方向に伝わるわけではないので、こちらが話し終わった後から相手が聞き終えるまで12秒かかるんですよね。なので「あれ、伝わったかな?」「(間)」「あ、伝わった!よかった!」みたいな。(笑)

 

カメラ目線問題

 先生が生徒のことを考えた目線(=視線をディスプレイの生徒に向けるのではなく、カメラに向ける)で話します。この時生徒はディスプレイを見ていていいのですが、「あぁ、これだとお互い視線が合うことはないのか~」なんて考えてしまいました。

 先生が少し長めに説明している時、それが随時伝わっているかどうかが先生側からわかりにくいのではと思います。逆に生徒側も「なるほど」「わかりました」というサインをどう返すか、終始ちょっと気になっていました。説明中にいちいち相槌発言をすれば途切れの元になるし、かといって黙って頷くだけでも先生はカメラを見ているわけなのでその頷きは認識できていないはずですよね。これは仕方がないかなぁ。

 

 と、こんな風にオンライン特有の注意点はありますが、全体的にはとってもためになるレッスンが受けられているという感想です。勉強になっているし、何よりいつも通り会話できて楽器も弾いたり聴いたりできて楽しいんです。

 だから「勇気がなくて」「モジモジしちゃって」踏ん切りがつかない生徒さんがいらしたら本当にそれはもったいないですよ~と言いたいです。(^^)初めてのことでも、自信がないことでも、案外やってみるとなんてことないじゃん!ってなっちゃうものですから。

 (それにしても試行錯誤中だからと先生はおっしゃいますが、もう次からはレッスン料収めないとバチがあたりそうです…いつも楽しいレッスンをありがとうございます!

 

遠隔レッスンのための留意事項

 遠隔レッスンのレポートの後長谷川先生のブログに「オンラインレッスンの考察」というまとめ記事がアップされました。それを読んで、私も前回の記事には書かなかったけれどやはり言及しておいた方がいいかなと思った内容を書いておこうと思いました。私の方からはレッスンを受ける生徒側の視点から、レッスンそのもののための準備・留意事項をいくつか書いてみました。

 

音の途切れによる内容の聞き逃し

 こちらの画面でほんの23秒画像がカクカク、音もプツプツと切れかけた時がありました。(私は無線接続で部屋が線路の側なのですが、もしかしたら特急が通過した時にそうなったかも?)

 話の内容は前後から補完して今回は問題ありませんでしたが、もし途切れたせいでよくわからなかった場合、話の途中でも手を挙げるなどしてもう一度説明を求めた方が良いと思います。わからなかったのにそのままにしてしまう方が良くないことだと思うので、ここは遠慮せずに。(先生側からも開始前に「話が聞こえなかったときは遠慮せずに聞き直してね」等と一言あるとより安心感が増していいかもしれませんね。)

 

情報をしっかり伝えるために

 音質は悪くはありませんでしたが決して良いというわけでもありません。はっきり話し、あまり早口にならないように気をつけるといいと思います。何か説明する時も一度に多くのことを言葉だけで話しすぎず、指の動きの話なら実際に指をゆっくり動かしながらとか、身振り手振りも使って伝えられると効果的だと思います。

 わかりやすい伝え方のために参考になる動画を見つけました。カマンチェの弓の持ち方のレクチャー動画ですが、言葉が全然わからなくても、これだけゆっくり丁寧に説明していれば何を言おうとしているのかが伝わってきますよね。

 長年先生として教えている側ならこのように説明することにも慣れていると思いますが、テレレッスンの場合生徒側もこんな風に上手に伝える工夫を心がけると良いと思います。楽器のレッスンを受けると同時に物事をうまく説明する練習にもなる!と思えば一石二鳥ですね。

 

進行をスムーズにするために

 もし質問したいことや疑問に思っていることがあれば、あらかじめリストアップしておくと良いと思いました。レッスンが始まるとバタバタしたり体験自体がおもしろかったりで、開始前までに考えていたことをすっかり忘れてしまったりします。私も聞きたかった質問は聞けましたが、以前教わった内容で練習し続けた結果こんな改善があったという報告をするつもりだったのを忘れてしまいました。

 やり取りをスムーズにするためにも、やはり楽譜は先生も生徒も全く同じものを用意しておくことが好ましいと思います。自分で楽譜を作るならば小節番号やリハーサルマークもつけておきましょう。対面レッスンなら直接指指して「じゃあここから」と言えば済みますが、遠隔ではそれがパッとできませんからね。

 

Zoom の画面共有でできること

 今回 Zoom の画面共有機能を使って、私のPCに入っている動画入り電子ブック(ウードの奏法を実演・解説したもの)の一部を見ていただきました。電子ブック本文から動画、音声まできちんと相手のPC上でも再生されたようです。見ていただいた結果、私達のレッスン内容にも大いに役立ち、これは使い方によっては便利かもしれないと思ったのでご紹介します。

 画面共有には2種類あり、デスクトップ全体(ディスプレイに映っているもの全て丸ごと相手に見せる)か特定のウィンドウ(ソフト画面)だけを見せるか最初に選べます。共有を開始すると指定した範囲の画面がそのまま相手のディスプレイにも表示されます。マウスカーソルまで同じように動いて見えます。

 楽譜ファイルをPCに入れていればそれを開いて「ここ」とマウスの動きで指すこともできますね。もし曲の全体を通して曲想の解説などする場合、カメラに楽譜を近づけて手持ちで解説するよりもずっと見やすいと思います。そのためには楽譜の画面をすぐに見せられるようにあらかじめバックグラウンドに用意しておくと良いですね。

 生徒側からの使い方としては例えば「こんな演奏動画を見つけたのですが、この部分を真似てみてもこんなにはっきりした音にならないんです」「この部分はどういう奏法が使われているんですか」なんて質問をするのにも使えそうです。

 

画面共有で編曲会議?

 あともう一つ思いついた使い方としては、編曲会議(なんてものがあれば)などに良いのではないでしょうか。これはレッスンよりはミュージシャン同士向けかもしれません。私は自分で編曲等もしますが、そうして作った楽譜を教室でのレッスンに持ち込んで「ここはこれでどうでしょう」などと見ていただくことがありました。そういった意見交換をするのに楽譜作成ソフト画面をお互いのPCで表示しながらその場で編集して音も出してみて、というのは新たな手段になるかもしれません。

 楽譜ソフトも経験がある方にはわかると思うのですが、ある程度使い慣れると打ち込みがとても早くなります。脳内でドレミ~と鳴らすのと同時に瞬間的に「CDE~」と打ち込んでいったり、そのついでに「3」とか「5」とか打って3度や5度上(設定によっては下)の和音を付加したり。「ここからオクターブ変えてみよう」「1音ずらそう」「やっぱり別のキーにしよう」と思えばそれも一瞬です。そんな感じで慣れた方が操作するなら“編曲会議”がかなり捗りそうに思います。

 コンピューター音源上では良さそうに聞こえても実際の楽器で鳴らしてみると微妙だったり、運指的に問題ありだったりするのでその検証はまた必要ですが。しかしそれこそお互いがそれぞれの楽器+道具類を持ち寄る対面会議を計画するより楽なのではないでしょうか。

 

 と、とりあえずこんな感じで思いついたことを並べてみました。生徒側先生側問わず、どなたかのお役に立てるようであれば良いのですが。また気づいたことなどあれば記事にしていきたいと思います。

 

遠隔レッスン体験談

 私も興味のあったオンラインでの楽器レッスン、昨日初めて受けてみた感想です。
こちらの使用楽器はウードです。
先生は現在お世話になっているはせがわ音楽教室の長谷川先生です。
長谷川先生はクラシックギタリストです。

 つまり、本場中東のウード講師からウードのオンラインレッスンを受けたという話ではありません。ネットを介したレッスンってどんな感じなのか、わかりにくかったりしないのか、そんな疑問を持つ方への体験談として読んでいただければと思います。

 ウードの練習生がなぜギター教室に、といういきさつを下書きしていたらズラズラ長くなりすぎてしまってアップできていません。流れを簡潔に言うと、
・独学でギターを始めていた。(約2年)
・家から近いはせがわ音楽教室の発表会や演奏会をよく聴きに行っていた。
・しかし楽器の音色としてはウードが好きだったのでウードを購入した。
・でもアラブ音楽・アラブウード奏法は好きになり切れなかった。
・ギターで弾いていた西洋の曲をウードの音色で弾きたくて長谷川先生に相談したら受け入れてくださった。

という具合です。

 

使用機材・アプリ

 私の方は MacBook Pro (2017) と元からついているマイク、カメラ、スピーカーのみです。接続は有線にするべきなのでしょうが、ケーブルが手元になくお互い「おためし」という事でもあったので無線で始めました。先生側は外付け Web カメラやヘッドホンなど色々使用されていました。(詳細は先生のブログへ

 アプリは Zoom を使いました。さすがビジネス向けの Web 会議サービス、インターフェイスもシンプルですしなかなか良いですね。

 

レッスンの流れ

 予約した日時の少し前に先生側(ホスト)が「ミーティングルーム」を作ります。そこへ参加するための URL が生成され、メールで送られて来るのでそれをクリックして「ミーティングに参加」し、ホストが承認すればお互い繋がります。

 画像で繋がった後、こちらから「オーディオに参加する」をクリックしないと音声が繋がらないようです。(開始後しばらくこれを忘れていました、失礼しました!)

 

スピーカー?ヘッドホン?

 音声をPCのスピーカーから直出しすると、先生側からの音もこちらのマイクが拾ってしまって問題ありかなと思ったのですが、支障が出るほどの問題はないようです。ただスピーカーオフなら先生側に届く音質が改善されるとのことで、繊細な音色の付け方を聴いていただきたいとか、継続したオンラインレッスンを検討するならヘッドホンがあると良さそうです。 

 密閉型ノイズキャンセリングヘッドホンとカナル型イヤホンなら持っていますが、これらでは遮音性が良すぎて耳栓しながら弾くような感じになってしまってダメでした。レッスン用として新たに用意するなら自分の声や音も遮らない開放型のモニターヘッドホン、例えばヤマハから出ている電子ピアノ用の HPH-150 などがちょうど良いかもしれません。

 

レッスン内容は?

 まずはいつも教室で取り組んでいた Turlough OCarolan Carolans Welcome でお願いしました。これは先生との二重奏用なのですが、遠隔だと1秒前後も遅延するので合奏は無理ですね。これだけは「がんばればどうにかなる」というレベルではなかったです。

 そもそもギタリストの先生とウードの生徒がどういう内容のレッスンをしているの?と思われるかもしれません。ついでなので楽譜も載せて説明しましょう。

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 17世紀アイルランドのハープ奏者の曲です。キーはウードで弾きやすいDマイナーにして装飾を加えた状態で楽譜を作りました。ここでは奏法、装飾記号ともにペルシャウードスタイルです。2枚目は先生用のシンプルな楽譜で、コードは実際弾いたり合わせたりしながら二人で決めました。

 まずは全体を通して弾き、「悪くはないけどここでこういう傾向になりがちだから注意」という指摘を頂きました。「こういうところではこうなりやすいので(先生もギターを弾く)」「そうではなくて、こう、ゆったり(ゆったり弾く)」という具合に実例を出しながらの説明が教室でやるようにわかりやすく伝わりました。

 こちらからは装飾音に関するテクニック的な質問をすると、とても的確な答えをいただきました。具体的には「19小節目の最初、ここは左人差し指でのいわゆる下降スラーなのですが、これがピンピンした音になってしまうのでもっとアポヤンド的な音を出したいんです」などというギター脳な質問です(笑)。ここでもやはり実演を交えて説明していただき、その場で言われた通りに試してみると「こうかこうか~!」という感じで手応えが掴めました。こんな感じのレッスンです。

 

 楽器が違うので技術的な事はこの説明でどうかな?というのは教える側にもあるのかもしれません。構造や構え方など色々違いもありますが、それでも説明通りに試してみるとぐっと良くなります。やはり同じ撥弦楽器同士、良い音を出すためのポイントには大差ないみたいですね。

 これは今回のレッスンではありませんが、押弦時、隣接高音弦に指が触れないようにするには?という質問をしたことがありました。対策として左手全体をネック側に十分引き寄せることと、おすすめのエクササイズも教わりました。それを毎日少しずつ続けていたら、ウードでは大切になる「複弦を真上から均一に押さえる事」がよりしっかりできるようになってきました。

 さらに、右手の音色の深さや右肩の負担の事を考えると楽器はなるべく下方の位置で構えたいのだけれど、そうすると左手がうまく弾けなくなってしまうというジレンマがありました。このエクササイズのおかげで下げた状態でも左も問題なく弾けるようになっていることに気付きました。これは思いがけない嬉しい効果です!(ありがとうございます!)

 こちらの教室に来てからどんどん音が深く良くなっている気がするなぁと思っていたら、傍で聴いている主人からも「とてもいい音になったね」「最近すごく安定してきた」「いい先生に巡り会えて良かったね」なんて言葉が出てきました。場違いな楽器を持ち出してきて本当にすみません、という気持ちもあったのですが、先生の方もこの楽器でのレッスンを楽しんでいただけているようで良かったです。

 

自室で弾く時のリラックス感

 遠隔レッスンの話に戻すと、開始前に気になっていたことがありました。たとえ慣れている相手でも人前で弾くとどうしても緊張感が出て演奏が硬くなりがちなのが、遠隔レッスンではどうなるのか、という点です。やはり同様に緊張してしまうのか、それとも一人で弾くようにリラックスして弾けるのか

 やってみた感想は、やはり多少緊張しましたが、それでも教室よりはずっと落ち着いて弾けました。教室だと本当に目の前に先生がいてずっとこちらを注目しているのが視野の端でも見えていますが(笑)、自室だとPCの画面を見なければいつもの自分一人の世界です。とは言っても人前演奏にも慣れていかないといけないのは変わりませんけれど。

 

 それにしても本当、思った以上に普通にレッスンになる、という感じです。何でもやってみるものですね。ぜひまたお願いしたいと思います。ありがとうございました!

 

イラン人からのメッセージ

 日本もそうではありますが、世界での深刻なパンデミックに不安になり、欧州在住のイランの方に心配している旨を伝えたら、まったく逆に元気づけられるというオチになりました。

 “しかしまぁ第三次世界大戦みたいだよね。でもどうか前向きな心でいることを忘れないでね。それが良い針路を保ち続ける助けになるから。これも最終的にはそれぞれにとっての良薬になるんだよ。私達全員にとって、何らかのね。安全に過ごして、思いやりの心を広めてね。”

 なんということでしょう。すっかり勇気づけられてお礼の返信をしたら、今度はとてもうまいユーモアを絡めて切り替えしてきて思わずひと笑いしてしまいました。(個人的な内容なのでここには書けません)

 なんという強さでしょう!このような時でも穏やかで優しい言葉をかけて他者を励まし、しかも笑いまで誘うことができる。これが人としての真の強さを持っているということなんだなと思いました。

 こんな異常時だからこそ、どんなアドリブを出す人間なのか、どこまで機転を利かせることができるのか。一人ひとりの本性を知ることができる機会とも言えますし、今採る行動によってはぐんと人間性を深めることができるチャンスでもあるのでしょう。

 

 私からも一つ、勇気づけられる(かもしれない)小話を書きたいと思います。

 私はマンションの高層階に住んでいるのですが、毎年春にツバメがやってきて近隣のどこかで子育てをしています。ある時無事に育ったヒナが飛行訓練をしている現場を目撃したことがありました。まだ体が小さく羽毛も親とは違うヒナたちが、時には転びそうになるような感じで体勢を崩しかけたりしながらも、懸命に飛び続けていました。この高所ですから、諦めたら本当におしまいです。

 両親は2羽ともピーピー声を掛け続けながら一緒に周囲を旋回するだけです。それしかできません。ヒナたちはバランスを崩しても自力で立ち直り、飛び続ける他ありません。そんな訓練が1時間以上も続きました。

 どんな説教をも凌駕するような、本当に凄いものを見せられたような気分でした。弱音を吐きたくなったときにいつも思い出す光景です。どんな環境に置かれたとしても、その中で今何が自分にはできるのか落ち着いて行動を刻んでいきたいものです。

巡り合わせの不思議

 世界中で COVID-19 の猛威に見舞われている中、私も家に籠もって静かに楽器の練習をしています。このような異国の楽器を弾きながらつくづく、巡り合わせ、縁というのは不思議なものだなと思いを馳せています。

 何かの案件が起こり、その渦中にいるときは「不運だ」「なんということだ」と思っていても、後になってみると「実は幸運だった」「本当にそれで良かった」としか言えない、そんな具体例を今いくつも目の当たりにしています。

 

 今年1月に、私自身もお世話になったスペイン人のスペイン語講師のお母様が他界されました。しかし今思うと「あの時で本当に良かったね」としか言えません。今では飛んで帰ることもできませんし、スペインではとうとう葬儀の禁止令まで出たとのこと。人様のご不幸ですら、「あれで良かった」としか言えない、人知を超えた巡り合わせの不可思議

 私のカマンチェも、今こんなに夢中になって弾いていることが不思議で仕方ありません。先日も書いた通り長谷川先生の擦弦楽器購入とイランの悲痛な事件、このどちらが欠けていてもこの楽器は今家に存在していません。しかし楽しく弾いていながらも状況が状況ですから「あの時買っておいて良かった」と軽々しくは言えません

 実はウードの方でもちょっと普通ではない縁の絡み合いがあったのです。最初は全く別のあるトルコウードを購入する予定でした。目当てのウードを扱っている日本のオンラインショップが2店あり、そのうちの1店で注文しましたが、約10万円払って届いたのは同メーカーの約3万円の廉価版のもの。さすがにこれは受け取れないと返品・返金手続きをしているほんの23日のうちに、もう1店にはあった在庫が売れていってしまいました。そこでトルコのメーカー直売オンラインショップで購入しようとしましたが、サイトの技術的不備のため購入完了に至らず、メールで問い合わせをしても何かの行き違いか、返信を受け取ることはありませんでした。

 その最中は、これほど見事に不運が続くなんて、と珍しく真っ暗に沈み込んだものです。「この際どれでもいいから」などと焦る気持ちを落ち着かせ、弦長は 585mm であることと店主が信頼できる方であること、この2点に絞って探して見つけたのがこの7コースのものでした。今となっては、「ウード」ではなく「この個」でなくては私の現在の西洋音楽をも含んだレパートリー、こんなに充実した毎日はありませんでした

 

 今起こって見えている事柄も途中の様相に過ぎないのですよね。ウイルスは危険で恐いものかもしれませんが、恐怖に囚われて視野の狭くなった人間もまた怖いものです。世界ではコロナ関連の悲しい暴力事件も起こっています。日本でも程度はゆるいかもしれませんが、似たような嫌な事件も起きています。不安な時でも視野は広く保っておかなければ、焦りから判断を誤ることになりかねません。

 考えてみれば世界中の未来の教科書に載るような出来事を今まさに体験している最中です。そんな風にちょっと先の視点から今を眺めれば、後々顔から火が噴き出るような真似は大なり小なりできないと思えるのではないでしょうか。

 逆に少し過去に遡れば、私達にごく近い先祖でも大変困難な時代を何とか耐えてきてくれています。その時代の苦労を思えば、まだまだがんばれるとも思えるのではないでしょうか。

 何が本当の正解なのか確信が持てない中、それでも日々懸命にできることをし続けて過ごしていれば、この経験が後でどのような仕合せを呼ぶかは未知なのです

 

 これも言葉ではなんと表現してよいかわかりませんが、困難な中だからこそ、本当に心に響く美しい曲が生まれることがあります。これは20179月にフロリダとカリブ諸国を巨大ハリケーンが襲った時、同地域の友人知人を思って作られたクラシックギタリストによる曲です。

 このスペイン語の曲名を私が日本語にするとすれば「どうか無事でいて」としたいと思います。私もイラン、スペイン、オランダ、イタリア、ドイツ、イギリス、アメリカなど世界中にお世話になった人、かつて一緒に馬鹿騒ぎして遊んだ人々がいます。この曲の通り、どうか無事でいて欲しいという願うのみです。

 (私はこの曲の楽譜を購入してよく弾いていました。ほんの1年前はたしかに弾いていたはずなのですが、今では全くさっぱりです。どこでどうなるか本当にわからないものです…。)

 

私のカマンチェ紹介

 こちらが私のところへ来たカマンチェです。クラウン(ヘッドの壺型装飾パーツ)がありませんが、理由や入手経緯などは前回の記事をご参照ください。

 

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使用素材

 ボディ:ウォルナット+メイプル
 ヘッド、ネック、ペグ:ウォルナット
 指板:エボニー
 皮:ラム
 ブリッジ:ホワイトアッシュ
 テールピース、エンドピン:ブラス

 

 まだまだ音階すら弾けない状態ですが、とりあえず少しだけ録音してみました。調弦は下から GDAD、それぞれの弦のピチカートとオープンボウイングです。どうもピチカートでは若干音程が下がるようで、調律はボウイングの音で合わせています。

 

 録音の中に何かギシギシした変な雑音があるのに気づかれましたか。これは弓に使われている革ベルトが軋んでいる音なんです。

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  馬毛の束はそのままではブラブラしている状態で、このように中指と薬指を革ベルトに乗せて自分でテンションを調節しながら弾くのです。ハイテンションで弾けばクリアで清らかな音色が、テンションをあまりかけずに弾くと空気感を含んだような笛のようにも聞こえる音になります。

 しかしその調節具合もまた難しいんです。それぞれの弦により欲しい音色のための最適な力加減が全く違い、低音側の弦は笛系の音が出しやすく、高音側だとより微細な調整が求められるようでクリアな音しかまだ出せません。弓を返す時にヘロっとなったりピヨっとなったり、こんなところもまた笛に似ていて面白いんです。

 

 開放音からメジャー音階のインターバルで薬指まで、という練習も録音しました。かすれるばかりで音が鳴らなかったり、隣接弦まで擦ってしまっていたり。音程も怪しく稚拙な内容ですが、とりあえず始めて3週間ということでご勘弁ください。(笑)

 

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 入手したのはオンラインでペルシャ音楽・楽器を教えている Rhythmitica というところで、そこのショップコーナーから購入しました。(※しかし今現在は COVID-19 によるパンデミックのため発送業務は停止中です。)

 注文するとすぐに、「演奏する地域は東京ですか?そちらの気候、特に湿度はどのような具合か教えてください」と連絡がありました。天然の皮を用いた太鼓などは少しの湿度差でも多大な影響を受けるものです。湿度 40% 60% では皮の張り(=音高)が完全に別物になってしまいます。なので、冬は乾燥しているけれど、夏には長い雨季があり(梅雨や台風も含めて)6070% にも達するということ、そのためこちらで活動しているレク(※アラブタンバリン)奏者の話によるとぴっちりと張ったレクをオーダーしなければいけないらしいこと、等を伝えました。結果、皮をきつく張って仕上げたものを送っていただけました。

 

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 ウードやギターもあるので湿度には気をつけていますが、夏の高湿度による変化で何か気づくことがあればまた追記したいと思います。おそらく高湿度で皮がゆるいとたるんで弦高が下がり、何らかの支障が出てしまうのではないかと思います。

 それにしても大変な難しさで、音階をまともに弾けるようになるのもいつになるのやら。しかし逆に開き直って「早く何か弾きたい」などという焦りもなく、そのうち何かできるようになっていればいいなぁくらいの気持ちでのんびりとボウイングしています。

 

悲しみのカマンチェ

 さて。「新たな楽器を入手しました」なんていう話題はできれば明るく元気にお知らせしたかったのですが、非常に残念ながらそういう訳にはいかない状況となってしまいました。

 今、私のウードの隣には全くもって別系統の新しい楽器がちょこんと座っています。イランの擦弦楽器、カマンチェです。ケマンチェと表記されることもありますが、ペルシャ語の発音を聞くと「キャマーンチェ」というのが近いようです。ウードがギターの祖先だとすれば、カマンチェはバイオリンの祖先と言える楽器です。

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英語版 Wikipedia Kamancheh より。私の楽器ではありません。

 元々は3本の絹弦が張られていましたが、西洋のバイオリンが逆にイランに広まってからは4本のスチール弦仕様が一般的となりました。弦長もバイオリンとほぼ同じ33~34cmのため、現代ではバイオリンと同じ調弦 GDAE 1弦下げの GDAD にすることが多いようです。皮張りの丸い共鳴胴にチェロに見られるような一本の脚(スパイク)を持ちます。これを軸として楽器を転回させることで移弦します。

 カマンチェはアンサンブルに入ることもありますが、最も重要な仕事はソロでの即興です。この楽器とそのインプロビゼーションはユネスコ無形文化遺産にも登録されています。その演奏法がよくわかる伝統的な演奏の動画を紹介しましょう。特に中盤からの踊るような動きはこの種の楽器(スパイクフィドル)特有のもの。見事な手捌きです。

 カマンチェの熟練奏者はどんなに長く激しい演奏をしていても心中の静寂を保っているような方が多く、凛とした禅僧のようでもあり観ていて清々しいため、私はこの楽器の演奏動画もよく視聴していたのです。しかし仮にこの楽器を手にしたとしても難解な即興の勉強をぜひしたいとまでは思えないし、何より素晴らしいウードがすでにあるし、大人しく観ているだけにしているつもりでした。

 

 ところがある日、お世話になっているギタリストの長谷川先生が弓奏ギターとも言えるアルペジョーネを入手されたと仰るではないですか!しかも以前お持ちだったものは売却し、新たに制作家に作っていただいたのですって…。えー、何それ!擦弦楽器は我慢してたのに先生ズルい、などと意味不明な衝動が(笑)。これが一つ目の理由でした。

 もう一つ購入について決定的となったのは、ちょうどその頃アメリカがイランの要人を殺害したというニュースが流れていた事でした。「もしかして、考えたくもない事だけど、イランの楽器を購入するなら今しかないのでは」という嫌な予感が強く湧き、すぐに注文してしまいました。同時に以前から興味のあったウードやカマンチェの楽譜集や教則のような本も、ペルシャ語でも構わず何冊も購入しました。

 

 短いですがカマンチェの魅力あふれる一曲です。途中から聞こえてくる不思議なニュアンスの撥弦楽器はカマンチェ自身のピチカートです。皮張り共鳴胴のおかげでこんな幽玄な音色になるのです。

 

 私が注文したショップは出来合いの在庫を送るのではなく、演奏される地域の気候に合わせた皮張り仕上げを施して発送してくれる良心的なところでした。注文から発送まで10日ほど、それから到着までやはり10日位でしたでしょうか。

 ところが一点、不備のある状態で到着しました。演奏に直接の支障はありませんが、カマンチェのヘッド頂点についている壺のような装飾パーツが無かったのです。写真と共に知らせたら、「どうやら発送過程で何者かが盗んだようですしかしすぐに新しいものを用意して送りますからご安心ください!」との返事が。こんなパーツを一体誰が盗みたがるのだろうという疑問は仕舞っておいて、丁寧にお礼を言って到着を待っていました。

 それから約2週間が過ぎ、だんだんとこの小さなパーツのことよりも現地の方々の方が余程心配な状況になってきました。そんな中、昨日1通のメールが届きました。部品自体は準備ができているけれど、コロナウイルスの猛威によりすでに厳格に隔離されていて発送がいつになるかわからないのこと。非常にまずいことになっている状況が伝わってきます。日本も大変ではありますが、イランでは毎日新たに数十人、日を追うごとに増えていく死亡者数の報告に言葉もありません。一日でも早く終息することを願うばかりです。

 最後にもう一曲、若いのに卓越した腕前の奏者による大好きな動画です。「カマンチェは永遠の悲しみを生きる楽器」(アゼルバイジャンの著名なカマンチェ奏者 Habil Aliyev 談コメント欄にそうありました。

 私の元に来た楽器の写真や仕様などはまた後日記事にしたいと思います。