SolitOUD

7コース13弦ウード&カマンチェと過ごす穏やかな日常

無口な教師 カマンチェ (2)-2

 カマンチェ先生から教わったことを書いてみるシリーズ第2回目「脱力について」の続きです。(前回の記事の記事はこちら

 今回は無意識にかけてしまっている無駄な力にまず気付くこと、そしてなぜそんなに力を入れてしまうのか、どうしていけば良いのかをまとめました。

 

日常動作における無駄な力

 力感のゼロポイント、つまり「過剰な力が入っている=筋肉がこわばっている感じ」を自覚することなくバランスの取れた状態でいること。これを様々な日常動作を行うときに念頭においてみると、色々思うことがありました。

 例えば濡れた手をハンカチで拭く時、ぎゅうぎゅうと強い力を込めてはいませんか。歯ブラシで歯を磨く時、腕全体がこわばるほど歯ブラシを握りしめてはいませんか。何かをしている時に「本当にこれだけの力は必要かな」と見直してみると、あれもこれも無駄な力を入れ過ぎていることばかりだと気付きました。

 本当に必要十分な力だけで過ごそうとしてみると、この世界は本来はもっとずっと軽やかにやっていけるものなのかもしれない、なんて思えてしまうのです。

 

無駄な力が入る理由

 どうしてそんなに強すぎる力を無意識にかけてしまうのでしょう。その理由は、今している動作に集中していないからです。頭で他のことを考えていると、どうしても過分な強い力を入れてしまいます。注意深く自他を観察しましたが、これはどうやら100%そうなってしまうようです。(皆さんはいかがでしょう?)

 推測ですが、体がある動作をしている時に頭が別のことでビジー状態の場合、体が頭からのフィードバックが欲しいのに得られないため、念のため力を余計に加えておこうとするのではないでしょうか。

 あまりにボンヤリしていると物を掴みそこねて落としてしまったりしますが、そうなることを防ごうと体の方が自己判断で強い力をかけるように思えてなりません。今している動作にきちんと向き合っていれば、「これをこなすにはこの力だけで十分」とちゃんと気が付き、軽やかに済ますことができるのです。

 

 そして余計な加圧に拍車をかけるのは、精神的なストレスのように思います。私は集合住宅に住んでいますので、近隣の方が掃除機をかける音なども聞こえてきます。時にかなり強い勢いで「ガガガガー!ガガガガー!」とまるでデッキブラシでタイルを磨くかのようなかけ方をしていることがあります。

 掃除機がけはホコリを吸い取って綺麗にすることが目的で、掃除機をかける動作自体が目的ではありません。けれどそれが目的になってしまっているかのようなケースでは、そこに精神的なストレス(心身の余裕の無さ)を感じます。「やることが山積みで」「思うように進まなくて」「なんで私ばかりが」…。その不満感、ストレスをそのままぶつけているように思えてなりません。

 そのようにしたくなる時もあることはよくわかりますが、だからといって力任せに掃除機をかけるのは自分自身が損するばかりです。効率はかえって下がり、より多くの無駄な疲労を溜めてしまいます。本来そんなに大きな苦労、疲労は被らずに済ませられたはずなのに…。

 しかしストレスと強すぎる力の関係は、楽器練習の時にも言える大きなヒントではないでしょうか。

 

力を削ぎ落とすクセを日常動作からつけてしまおう

 掃除機の例と同じように、弦楽器の押弦、また弾弦やボウイングも力では決して最良の結果は得られません。それはわかっているけれど、練習となるとつい力が入っちゃう、というのが現実だと思います。では、練習で力んでしまう時とはどんな状態の時でしょうか。

 「何度やってもうまくいかなくて」「どうにもコツがわからなくて」「思い通りに弾けなくて」「ええい今度こそ!」…。掃除機の例と同様、不満感やストレス、余裕の無さがそこにある時だと思います。(楽器練習はフラストレーションの連続ですから…。)こんな精神状態の時につい力をぶつけてしまう悪いクセを、日常動作の全てを見直しながら、どんな時でも軽やかにこなしてしまう良いクセに転換してしまいませんか。

 手を洗う時、道具を使う時、何かをする時にその都度「その力のかけ方は、本当に効果的かな?」と自己チェックしてみてください。無関係な考え事をしてしまっていることに気付いたら、「今加えていた力は強すぎではないかな」と確かめてみて下さい。もっと軽い力で事足りるはずだったと思えば、それをしっかりと認識して改めていきましょう。

 この練習には、忙しくて楽器のための時間が取れない時にも焦らずにいられるというおまけまでついてきます。他のことをしながら「早く弾きたいのに〜」とヤキモキしていれば、それこそ無駄な労力を増やすばかり。

 それよりも今していることにしっかり向き合って、不要な強い力をかけないようにクセづけていく方が、それが結果的に楽器演奏時にも活きていくのです。これは考えようによっては日常生活の全ての時間を使って楽器練習をしているということもできるでしょう。何が本当に合理的でお得なことか、冷静に観ていきましょう。

 

精神的な余裕のために

 なかなかうまく弾けないことに対する焦り(精神的な余裕の無さ)に対しては、「それで大丈夫、正しい姿だよ」「慌てる必要はないよ」と自身に言い聞かせていきましょう。だってそもそもが楽器演奏は大変難しいものです。様々な要素の高度な連携を要する、脳疲労のとても激しいタスクです。

 それに成果を上げるには、美味しい果実が実を結ぶには、時間経過が必要でもあります。途中段階では結果が全く見えないのは当然のことです。日々の練習は地味でしんどい雑草取りをしているようなもの。淡々と努力を続けていれば、ある時ふくらんだ蕾を発見するように小さなコツに気が付いたり、さらなる継続でそれが花開いていく様を体験する時が必ず来ます。なかなかできなくて、という経験もそのためには必要な期間なのです。

 

 さて、だいぶ長くなりましたのでまた次回にしたいと思います。無駄な力がつい入ってしまう時の理由、「集中していないから」「うまくいかないストレスをぶつけようとしているから」。そして「力を加えることでは何も解決せず、むしろ悪化させるだけであること」「慌てず冷静にいること」、これを日常の様々な動作を通して意識にインプットしていきましょう。

 

無口な教師 カマンチェ (2)-1

 イランの擦弦楽器カマンチェの練習を通して楽器から教わったことを書いてみようというシリーズ第2回目です。今回のテーマは脱力についてです。

 

「脱力して弾きたい。本当に脱力して最低限の力で弾くには?」

 おそらくどんな楽器でも求められる重要な項目です。初心者のうちはうまく弾けないためにどうしても力が入りすぎてしまいます。「力を抜いて。」「脱力して。」初めのうちは四苦八苦するのは誰もが通る道として仕方がないのかもしれません。

 しかしある程度進んだ練習生はこの言葉の枠を自力で超えなければいけません。前回の「無心になること」と同様に、「脱力しよう」と思った瞬間もうすでに精神的に力んでしまっている状態ですから、これを意識している限り真の意味では脱力し切れていないと言えるのではないでしょうか。

 では具体的にどうすれば良いのか、ということをカマンチェ先生が1対1で教えてくれました。まずいきなり結論から書きますね。

 

力感のゼロポイントを探すこと

 例えば押弦で言えば、弦を押さえるのに必要十分な最低限の力だけで押さえるということですよね。これをジャストな加減で達成できた時には「押さえている感じ」もしなければ「こわばっている感じ」もしないのです。

 本当にバランスが取れていれば、関節にも筋肉にもどこにも余計な力がこもらず、結果全く何もしていないかのような状態でいられます。そんな力感のプラスマイナスゼロポイントが必ずあります。それを探るのです。

 しかしこれを見つけるのは決して簡単ではないので焦らないでください。見つけたとしても、その状態にスッと入れるようになるのにもまた長い期間の練習を要します。

 カマンチェがどのようにしてこんなことを教えてくれたのか、その内容がそのままゼロポイントについて知るヒントにもなりそうなのでお伝えしたいと思います。そのためにまず楽器の特徴やカマンチェの弾き方を説明させてください。物理に直接根ざしたような楽器なので、きっとなるほどと思っていただけると思います。

 

全てにおいてバランスの上で成り立つ楽器

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 カマンチェは常に一本脚で真っ直ぐに立ち、奏者は楽器の脚を軸にして左右に転回させて移弦して弾きます。楽器が倒れないよう支えているのは直径1cmにも満たない軸脚と、奏者の左手のみです。

 

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 左手をこのようにネックに添えてボウイングします。ダウンボウ(弓が左から右へ動く時)はボウイングによって楽器が右に回ろうとする力が微妙に働きます。これを左親指で受け止めて回らないようにします。アップボウでは逆に左に回ろうとする力を人差し指の側面で止めます。

 これを止めておくのに「押さえ込んで」しまえばスムーズな運指はできません。「左手を軽く締めておく」とか「アソビを取り除く」くらいの感覚でちょうど良いのです。とても微妙な加減です。

 

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 押弦時の指の形はこんな感じになります。弦を押さえるのに力を入れすぎてしまえば反対側に向かう過度な力がかかり、それをさらに無理やり握って押さえて…という悪循環に陥ってしまいます。それでは肩が凝ってしまいます。「押さえる」ではどうも力感が強くなりすぎて支障が出てしまうので、ここでもやはり「左手を締める」意識でいると良いのです。

 さて、何かピンと来ましたでしょうか。「押さえよう」としてしまうのは、かえってバランスを欠く状態に自ら飛び込んでしまうことになるのかもしれません。しかし弦には張力がかかってピンと張っていますから、たしかに「押さえて」踏み込まねばなりません。どうすれば良いのでしょう。

 

押弦1:細くて柔らかい1弦の場合

 押弦に過不足ない力加減を探すには、まず左手指を完全に脱力してみます。そこから左手を押弦時の形にして「締めて」(アソビを取り除いて)みます。この状態では指は弦を軽く押していますが、弦はまだ指板についておらず、押弦まではできていません。

 1弦ならばこの状態であともう少し指先で押してやればすぐに弦が指板につき、軽い力で押弦が完了するはずです。

 ですが、全く初めての方の場合、1弦でも弦が固くて指が痛くて「こんなの無理でしょー!」って感じになると思います。これはバイオリンでもギターでも誰もが最初はそうなんです。練習を続けているとだんだん指の皮が厚くなってきて全く平気になりますので、焦らなくても大丈夫です。指さえできてくれば1弦なら特に問題なく「最低限の力」で楽に押さえられると思います。

 

押弦2:低音弦の場合

 しかし太さのある低音弦は指先だけの力ではうまくいかず、つい力んでしまいがちになるでしょう。その場合は左腕全体の重さを利用します。

 左の肘に重りがついていると想像してください。左上腕の筋肉を緩めれば、この重りが重くなりますので、その重さを指先から自然に流すようにして押弦します。流した力はカマンチェ自身の背骨を通してアースしつつ、ちょうど押弦が完了する力まで流れたら上腕の筋肉の弛緩を止めればいいのです。

 左手を締めて、腕の重みを指から弦に伝え、その力が楽器の自重と合わさって脚から抜けていきながら真っ直ぐに立って静止している状態。これがゼロポイントです。この時の力加減はあまりにも自覚がなさすぎて逆に不安になるかもしれません。「押さえて」もいなければ「脱力」もしていない、楽器と奏者が一体になってバランスが取れた状態です。

 

結論:「押さえよう」とも「脱力しよう」とも思わないこと

 だから最初の出発点、「押弦」「脱力」という表現からして語弊があるのかもしれませんね。力のバランスがプラスやマイナスに偏った地点に焦点を合わせるのではなく、その中間のゼロポイントがあることを知ること。弦の張力に対しては重力をもって打ち消す(プラマイゼロにする)こと。

 これを達成した時、自動的に物理の縛りから自由になります。このゼロポイントに居続けた上で、かつ楽器の演奏技術が身についてくれば、はじめて軽やかで自由自在な演奏を繰り出せるようになるのだと思います。

 

  (自由自在な演奏例です。)私の場合カマンチェではまだまだ練習するべき基礎が多すぎて「言うは易し」状態ですが、これに気づいてからウードを弾く時の左手がとてもよく回るようになりました。余計な力がなければこんなに軽々と弾けるんだと自分で驚いています。

 次回はゼロポイントについて日常の物事に当てはめて実例を出し、他の楽器でもこれを探すための手がかりとなるようもう少し詳しく書いてみたいと思います。(我ながら難しいなぁ書けるかな~)

 

無口な教師 カマンチェ (1)

 もう先月のことですがカマンチェのヘッドパーツが無事到着しています。特に発送連絡もなく、いきなり届いたその日は私の誕生日でした。

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 カマンチェの方は焦らず・慌てず・ひとつひとつ、という感じでゆっくり練習しています。「そうか、こうするとこういう感じの音になるのか~」「あぁこうしちゃうと指に負担がかかって痛めちゃうか~(笑)」なんて楽器とじっくり向き合っていく中で何かを発見していくことを楽しんでいます。

 それにしても、カマンチェが練習を通して教えてくれることってとても興味深いことばかりです。いきなり核心を突いてきたりします。カマンチェのみならず、他の楽器や他の物事にも言えるような基礎の基礎、もっと根本的で普遍的な部分から見直すよう教えてもらっているようです。今日はその中のひとつについて書きたいと思います。

 

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「無心で弾きたい」

 私の楽器演奏においていつか達成したい目標のひとつは「無心で弾くこと」です。頭に何かが浮かんだり人前で他者を意識したりすることなく弾き通すにはどうしたらいいのだろうとずっと考えていました。

 だって「無心で弾こう」などと意識してしまった瞬間にもう落第しているわけです。この難しい問いに対してその身を持って教えてくれているのがカマンチェ先生なんです。

 単純な開放弦のボウイングや運指練習。こういう基礎練習を通して、本当に何も考えずにただ弾いている時の音色と、「よし次はこう弾こう」と「弾こうとしてしまった時」の音色が明らかに変わることに気づきました。

 正確に言うと、弾こうと意識した瞬間に、手指に必要以上の力を無意識にかけてしまい、「初心者ががんばって弾いているような」「作為的な」音に変わってしまうのです。弾こうとすれば「あっ」という間すら空けずに「それでは君の思うような無心では弾けていないよ」という現実を楽器の方から逐一示されるのです。これは厳しいそして面白い!

 

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 無思考でただ弾けた時の音が豊かで甘くて本当に心地良いんです。心地良いからまた浸りたくて「すっと入っていく」。でもあれを弾いてみようかとか録音してみようかとか、少しでも意図を持ってしまうとすぐに引き戻されてしまう(笑)。

 どうもその状態に入るにも訓練と慣れが必要みたいです。そしてやはり単純なものから段階を追って練習するのが道理のようです。曲を弾くにはとても複雑な順序操作が必要ですから、いきなり初心者が1曲無思考で弾くというのは無理がありますね。だからこそ単純な基礎練習から、本当にじっくり亀の歩みで進んでみたいと思います。

 

 最後に情感あふれるカマンチェの曲をご紹介します。一般的な日本人にも馴染みやすいAマイナーの曲です。囁きかけるようにそっと入っていくこの歌い出しは擦弦楽器ならではの魅力ですね。

 この曲は「Over The Green Fields」という韓国ドラマの主題歌だそうで、Sad Romance とか Sad Violin とかで検索すると色々なバージョンが出てきます。ミソラ~と軽やかなスライドで入るところとか、そうかそこでスライドすれば味わいを加えながらラを薬指で取れるのか~なんて目から鱗です。曲を弾くなど本当にまだまだ全然ですけれどね。

 

ウードの弦の張り方

 ウードの各弦をどのペグに通すのかというのがちょっと独特なので、弦交換の手順とともにまとめてみました。

 

アラブウード、トルコウードの場合

 まずはこちら、オーソドックスな6コースアラブウードのペグボックスの写真です。アルファベットがなるべく被らないよう調律は CFADgc ということにしました。大文字が巻弦、小文字がプレーンナイロン弦です。

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 慣れないとどこがどれかわからなくなりそうですが、この順序だと洗練された美しい見た目になるのです。ペグボックスの二等辺三角形の中に、巻弦による小さな二等辺三角形があるようにも見えますよね。

 使わないペグが1つ余分にあるのは、ベースを犠牲にして高音側にffコースを加えるハイ・チューニング(Iraqi Tuning)を採用する人もいるからです。その際は通常全コース複弦になります。

 トルコウードも音は違いますが、ベース弦が一番遠くに結ばれる同様の順序です。チューニングについてはこちらのサイトに詳しく出ています:STRINGING AND TUNINGS / Oud Cafe (英語)

 しかしアラブウードで7コースある場合の張り方がよくわかりません。7コース愛用者と話す機会があったのだから聞いておけばよかった

 

ペルシャウードの場合

 しかしイラン製のウードの場合は全く違います。こちらは私のウードで7コースありますが、6コースでも同様の張り順になります。

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 調弦時にわかりやすいのは大変良いのですが、見た目がイマイチ。。

 それに左側のAからF辺り、巻弦同士が歯車のように噛み合ってしまうことがあるのが気になります。ペグが緩みがちになる低湿度の時、Aを緩めたらついでにFもぐるんと巻き戻ったりすることがありました。その点アラブウード、トルコウードの順番はよく考えられていますよね。

 イランのウードでこれ以外の張り方をしている写真や動画は見たことがありません。万が一不具合が出たら面倒なので私もこれ以外の順序を試すことはしないでおくつもりです。

 

弦交換の手順

 弦を替える時の詳しい手順はこちらの動画がわかりやすいです。トルコ語ですが簡単な英語の字幕がついているのでわかりやすいと思います。

 

1. ペグを緩めて弦を外す。

2. 必要ならペグを外してペグボックスの清掃(筆などを使う)

 この時、外したペグがどれがどこのものかわからなくならないよう要注意!弦を通す穴の大きさがそれぞれ違います。ついでにペグコンポジションを塗っておくとペグの安定度が増します。ペグコンポジションについては解説できるほど詳しくはないので、気になる方は検索してみてください。

3. 指板や表面板の清掃 

 指板は時々楽器ケア用のオイルで磨いていますが、染め木材の場合色落ちする可能性もあるので自己責任で。表面板は軽くホコリを払う程度です。

4. 新しい弦を取り出し、ブリッジに結ぶ

 ペルシャウードの場合、弦を張る順序は ff→C→cc→FF のように、両端から交互に内側に向かうように行います。ffから低音に向かって張っていってしまうとペグボックスが他の弦で埋まってしまい最後の方の弦を通すのが難しくなってしまうからです。

 ブリッジに弦を通したら、私は高音2コース(ffcc)だけ4回ねじり、それ以後は3回だけねじっています。ベースは写真の通りです。

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 …今確認したら右端の弦だけなぜか5回巻きつけてしまっていました。(笑)

5. 弦の先端を、結ぶペグより2,3ペグ分先の位置でカットする

 私のウードで言うなら f1 に結ぶ弦は c2 辺りの位置でカットします。巻弦は固定しやすいので、 C弦なら F1 位で切っています。

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6. 弦の先端をペグ穴に通して巻いていく

 私は ff だけは細くて抜けやすいので上の動画のように穴に2回通すようにして固定させますが、c以降はただ穴に差し込んで回すだけで大丈夫です。

7. 全コース張ったらチューニング

 以上です。

 

 低湿度の時は木材が縮み、高湿度だと膨張するので、天候によってペグの回しやすさが全く変わってきます。今からの蒸し暑くなる季節、きつくて動かないなと思ったらそれ以上回さずに、面倒でも一旦緩めて少しペグを外側に逃してから締め直すことをおすすめします。無理に回すとペグが折れます(という話を聞いています)。

 高湿度で調節したペグは次に低湿度になった時にすっかり緩んで外れていることもあるのですが、木ペグとはそういうものだと思っておおらかに付き合っていくくらいの気持ちでいましょう。10にも満たない程度の湿度差でもはっきりわかるほどの違いがあり、「ああ、木材も呼吸しているんだなぁ」なんて実感してしまうのです。

 

弦を交換したものの…

今までと弦が変わりました

 先週の初め頃ウードの弦を交換しました。楽器入手から1年ちょっと、今までずっと同じセットを使っていましたが、今回初めて違う弦になったら違和感が凄くて。今まで長期間練習し続けていた曲ほどこれじゃない感が激しくなり、交換したばかりなのに「交換しなきゃいけない弦の音だ」みたいに思えてしまい(輝きに欠けたようなとぼけた音)…。いやいや、この状況で弦が手に入っただけでもありがたいのだから!と思い直しながら基礎練習ばかりしていました。昨日くらいからようやく耳が慣れてきて今までの曲もまた弾けるようになってきました。

 新型コロナが広まりだした頃、少し多めに弦を購入しておこうといつものショップから7コース用の弦13本セットを注文したら、今までとセット内容が変更されて届きました。メーカーは同じ Pyramid 社ですが、太さとランクが違いました。

 

今までのセット

1 Lute String 0.550
2 Lute String 0.650
3 Lute String 0.800
4 Super Aoud 3rd Silver-plated Wire Wound
5 Super Aoud 4th Silver-plated Wire Wound
6 Super Aoud 5th Silver-plated Wire Wound
7 Super Aoud C-6th Silver-plated Wire Wound 


今回のセット

1 Lute String 0.525
2 Lute String 0.600
3 Lute String 0.700
4 Orange Label Aoud 3rd Plain Nylon, White
5 Orange Label Aoud 4th Silver-plated Wire Wound
6 Orange Label Aoud 5th Silver-plated Wire Wound
7 Orange Label Aoud C-6th Silver-plated Wire Wound

 

 高音コースはどれも若干細くなり、巻弦も別シリーズになりました。Orange Label というのは決して悪くはないのですが、Super 弦よりもランクが劣ります(値段も半分くらい)。

 しかし驚いたのは4コース目、6コースウードだと3コース目にあたるDコースがプレーンナイロン弦でした。えっ、ここまでプレーン弦というチョイスもありなのですか?クラシックギターの3弦みたいなすごい太さですが

 このセットが到着したときに、「今回こういう内容でしたが間違いありませんか」とショップに写真付きで問い合わせましたが、「問題ない」とのことでした。

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 写真手前のペグに巻かれている巻弦がどちらも4コース目(D)、向こう側のペグのプレーン弦は3コース目(G)です。プレーンGより巻弦Dの方が細いわけですが、今回のセットのプレーンD、太すぎて巻弦D用のペグ穴、ブリッジ穴に入りません。明らかに強い違和感を生みそうなこの弦を試すために穴の拡張をする勇気は私にはありません…。

 このショップで弦を注文した後、なんとなく不安になり別のショップからも弦のセット・単品弦をいくつも買ってみたのですが、そうしておいて良かったです。その中から「Orange Label Aoud 3rd Silver-plated Wire Wound」を取り出して無事に全コース張り替えられました。その別ショップはあらゆる弦楽器の弦を取り揃える大規模な専門店です(さすがにガット弦はないようですが)。発送も迅速でしたよ。(Strings By Mail

 

音の違いは?

 今回弦を交換する前と後とで同じ基礎練習を録音してみました。しかし交換前のものは当然古くなって精彩を欠いている弦の音ですし、弾いているものも現在進行系で練習中のものなので比較材料としてはあまり良くないものですが、それでも音色の違いがわかるのではと思います。

 前半はアクセントなしで、後半はジャンプ先の高音開放音にアクセントをつける練習をしていますが、まだコントロールしきれていません。ピッキングはすべてダウンです。

交換前 2020516

交換1週間後 2020527

 交換後の方がまろやかな音でしょう。慣れてきてみると、これはこれで高音開放がうっかりパーンとなりにくくて良いのかもしれないと思えてきました。

 というか、ウード奏者がこれを聞いたら「あなたウードで何やってるの」「ウードってそういう楽器じゃないから」と呆れられそうです(笑)。いいんです、この練習続けてもう2ヶ月になりますが、これのおかげでとっても弾きやすくなっているんです。西洋音楽が。(あはは)

 

f:id:SolitOUD:20200528102803j:plain  弦の写真と一般的なチューニング例です。これは交換前の弦で、1コースのFがなぜか太そうに写っていますが実際は明らかに一番細いです。私のウードですと黒字のチューニングがひときわ響きが良くなりますが、始めて半年くらいはずっと青字だったせいかベースDもよく鳴るようになっています。

 今はDマイナーの曲の練習をすることが多いので赤字調弦で、この基礎練習もこのまま弾いています。

 

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 高音開放音にジャンプしたときに、右手の重さを使って弾けると豊かで優しい大きな音になりますが、これを小手先の力で弾こうとしてしまうとキツいだけのパーンとした音になってしまうのですよね。今はこの点をしっかりできるように練習しています。(なのでテンポはガタガタです、そこはまた後回し。)

 それとウードでDコースのEを押さえた状態でひとつ上のG開放を弾く時に、Gに指が触れてしまっていて変な音になっちゃうことがよくあるじゃないですか。プロの録音でも意外とよく聞きますが、私はどうしても気になるので綺麗に弾く練習がしたくてこれを始めたのです。今でも時々やっちゃいますがだいぶマシになりました。

 

録画・録音の大切さ

 オンラインレッスンの一環として初めて自分の演奏を録画しました(一般には非公開)。提出のための西洋曲2曲の他に、カメラテストを兼ねてアラブ曲(Samai Bayati Al Aryan)も撮ってみたのです(これも非公開)。それを見返してみてもう、色々と、ああぁぁぁぁ……。百聞一見。お陰様で本当に良い勉強になりました。

 問題の改善には、まず問題を自分で認識することが第一歩です。弾いている最中の色々なことにどれだけ自分で気づけていないのかが、録画して見直すことではっきりわかります。主に欠点に向き合うことになりますから、これは怖いしショックです。でもショックが強いほど強力な療法となります。(笑)それに「ここは意外と普通にできてた、前より良くなってた」という良い部分も同様に見つけられます。

 

 例えば、これから「仕事に行く」「人に会いに行く」という日に一度も鏡を見ないまま家を出るでしょうか。どれだけかっこよく着飾ってキメたつもりでいても、鼻毛が出ていたら……。録画して見直すというのは鏡を見るのと同じことなんだと思います。

 そんな訳で、自分の演奏を客観的に見て自己分析しました。以下は私の個人練習の内容なので自分のノートにでも書いておけばいいことなのですが、私のような年数浅い練習生でもこれだけ気付くことがあるんですという参考のために、今回はここに書きたいと思います。

 

【改善が必要な点】

手首がまだふにゃふにゃ動いてる

 ウードの先生によく指摘されていた悪癖をまだ直しきれていないようです。一時期よりはだいぶマシになっていますが。これはもう今!きっちりクリアしたい。最優先で取り組もう。

 

自分的に難しくて余裕のない箇所で速くなっている

 楽譜を追うことで脳内メモリがいっぱいになって、音価や音色その他のことまで注意が回っていない。「難しいから粗がバレる前に早く過ぎ去ってしまえ」みたいな心理もあるかも。下手に隠そうとするから下手に聞こえる

 

余裕があるはずのところでも速くなるパターンがある

 細かい音価のパッセージを弾いた後少しゆっくりしたフレーズが来るところ、旋律が上から順に下ってくるところなどが要注意。音符が細かろうが装飾を入れていようが、練習を重ねて余裕を持って弾けるようになった箇所はきちんとリズム通り弾けている。何かが不安定だと気づいたらそのままにせず、一度立ち止まってじっくり何度も練習しよう。

 

特に薬指、強い勢いでドスンと押弦している所がいくつもある

 この曲では主に F3。別の旋法の曲で F#3 でもやってしまうことがある。E4E half♭4 あたりもかも。腱鞘炎を起こしやすい私にとってこれが指の付け根を痛める原因の一つかと。(他にはスライドやビブラートを強すぎる力で練習するなど。)強すぎる押弦をするから力のバランスが崩れて不安定になってしまう。どんな時でも最低限の力で押弦する訓練。これはバランス調整の問題だから手首の固定の練習と同時にできそう。

 

少し離れた高音に飛ぶ時に必要十分な音量を出していない

 自信が不十分なために「ここは(音程とか)大丈夫かな」と伺いながらそっと弾いてしまってる感じ。この演奏自体が録画テストでもあったため、全体的に様子見のような演奏になっていた。これは曲の練習を続けると同時に録画の回数も重ねていけば大丈夫になりそう?

 

【よくできていた点】

音程しっかり取れてた!しかも安定感もあった。

 この曲に取り組んでいた去年の6月頃は、A3 D4 などが曲の中では不安定になって外すことも多かったはず。これは励みになる。続けてさえいれば、そのうち問題にもならなくなる時が来る。

 

フレージングもできてる

 私はネイティブではないのでアラブ人の思う“この曲”ではないと思うけど、曲の旋律から受ける私なりのイメージをまとまりを持って弾けていた。リズムも数字で10カウントしなくても直接 Samai のリズムを感じて乗れるようになっている(意図せず速くなってしまうことは別として)。

――― 自己分析以上 ――― 

 

動画が撮れなくても、音だけでも

 レッスンの一環としてチェックする先生側からすると、「何かのミスやコントロールがうまくいかないところがあるときに「たまたまその時にそうなってしまった」のか「呼吸や姿勢、体の動かし方から来るもの」なのかといったようなことは動画があると格段によくわかる」のだそうです。なるほど、何かがうまくいかないというときに「手の持っていき方が良くないのか」「もっと大きな姿勢から良くないのか」等判断がつきやすくなりそうですね。

 でももし動画が撮れる環境になくても、録音だけでもやらないよりはずっと良いです。音だけでも「こういうところで速くなるな」「何か迷いながら弾いてるな」「えいや!って弾いちゃってる感あるな」等々気付けることはたくさんあります。気付ければ対策に繋がりますから、とにかく行動してみることが大事です。

 

 そういやギターの録音もあるはず、と思って探したらありました。以前動画を貼り付けて紹介した Per-Olov Kindgren さんの『Espero que Estés Bien』のファイルが出てきました。雑音だらけ粗だらけですが、それでも全然弾けなくなった今の私からすれば「ほんとにこれ弾けてたんだなぁ」と。録音とか録画とか、思い出のためとしても残しておくと後々おもしろいですね。 

 2018824日録音。音からすると使ったギターは Cordoba Mini M DAddario Folk ブロンズ巻クリアナイロン弦のようです。

 

ペース配分にも気をつけよう

 「緊急事態宣言」「テレワーク」の状況となりしばらく経ちます。そんな中、ここのところ私の周囲で少々働き過ぎではないかなという懸念が見られる方々がいらしてちょっと気になっています。

 私の家族も多くの同僚と試行錯誤しながらのテレ会議、指示を伝えるための何本もの動画作り、フィードバックの確認のため起きた瞬間から寝る直前までメールチェック、そんな毎日です。なので伝えました。夜も仕事のことをするのは何時までと決めて、それ以降は一切やらない、考えないと切り替えないとキリがないよと。

 終わり(ゴール)がすぐそこに見えている 100m 走なら全力疾走で良いのですが、今回は誰も何も本当のことが見えていない中で、とりあえずの終了の目安が提示されているだけですよね。だからスタミナ配分も考えた持久走スタイルでないと後々倒れてしまうかもしれません。実際に睡眠不足は免疫力を下げてしまいますし、心臓にもきますから

 

「好き」を「嫌い」にさせないために

 「仕事=好きな事」な職業に就けている幸福な人はいます。しかしだからこそがんばりすぎてしまう嫌いがあるのではないでしょうか。

 がんばり続けて心身にストレスがかかった状態になると、体はそのストレスから退避する方向へ舵を切ろうとします。つまり好きなことであっても嫌なことだという信号を送って休ませようとします。それでも頭で意地を張って続けていると、そのうちに体からの強制的なボイコットが起こるでしょう。

 私は好きも嫌いも同じ感情に過ぎないと思っています。なぜなら好きも過ぎれば嫌いに転じるからです。「好きすぎて好きすぎて憎い。ワタシはこんなに好きなのに、だからどうしようもなく憎い。」これが起こりうることを歴史やニュースを通して知るからです。何でも過ぎればそこには破壊が起こります。

 だからそうなってしまう前に。『息抜き、息抜き。深呼吸、深呼吸。急がなくても大丈夫!』

 私もちょっと根を詰めた練習を続けてしまうと精神状態がマイナスに振れかけることがあります。「こんなにやってるのにどうしてもうまくいかないや。」この、「こんなにやっているのに」という思いが出てきたら一つの要注意サインだと思います。そんな引力(陰力)に気づいたら、「はっはっは~自分のペースでいいんだよ、上出来上出来!」と即座に揚力(陽力)をかけて沈み込むのを阻止しておきましょう。そしてストレッチをしたり、お茶でも淹れて頭も体もゆっくり休ませてあげるようにしましょう。リフレッシュ、リフレッシュ!