SolitOUD

7コース13弦ウード&カマンチェと過ごす穏やかな日常

ウードに関する疑問あれこれ

 ウードに興味を持った方によくあるかもしれない質問を Q&A のようにまとめてみました。ちょうど一年前の私が思っていた疑問に今の私が答えるような形になりました。私はクラシックギターを弾いていたので、ギターと比べてどうなのかという点も比較対象として挙げました。

 

Q. 複弦押さえるの大変じゃない?

 A. 実はウードでは押弦自体はとても楽なのです。弦高が低い上に張力もギターと比べて格段に弱くなっています。私のウードの弦高はボディとの接合部(7フレット相当)でおよそ2.5mm、ナット側はほぼゼロです。押弦は指先で軽く踏むだけという感覚で、踏み込みすぎればすぐに潰れたような窒息したような苦しい音色になってしまいます。

 複弦ということで気をつけなければいけないのは、真上から均等に力をかけないといけない点でしょう。斜めから押さえてしまうと複弦同士で指の重心がズレて音のうねりが生じたり、複弦の片方だけがビビったりすることがあるのです。特に小指で巻弦コースを押さえる時に起こりやすくなります。

 

Q. 調弦大変じゃない?

 A. ちょっとだけ大変かも(笑)。まず木ペグですとほんの少し回しただけで音程が大幅に動きます。しかも止まって欲しいところで止まってくれずに緩んだり行き過ぎたりします。それでもペグコンポジションを利用したり、コツを掴めてくればそれほど手間ではなくなってきますよ。微妙な音程を調節したいときは小刻みに回して様子見するのではなく、一度大きめに緩めてから締めなおすほうが最終調整が決まりやすいようです。

 それに張力が弱いおかげで弦の伸び具合が緩やかです。初めに調弦したら数時間程度は再調弦の必要がありません。(空調が効いてきたり、弦を張り直した直後などはこの限りではありません。)気温や湿度にあまり変化のない時は、前日に弾き終えてそのままの状態で翌日まで全く狂っていない、なんてこともあるのです。なのでどちらがトータルで大変かとは一概に言えないように思います。

 

Q. フレットが無いってやっぱり大変でしょ?

 A. はい、これは大変です(笑)。狙った特定の音、例えば3コース2フレット位置にあるラの音をそこそこの精度で出せるようになるまでに7ヶ月もかかりました。他の音は他の音でまた個別に時間がかかっています。

 指板側面に目印を貼ってそれを見ながら弾けば初心者としては楽になりますが、私はそうはせず、早いうちから基本手元を見ないで弾くことに決めました。そうでないと楽譜やチューナーを見れませんし、後々視覚の効かない状況(極端に暗い所とか、逆に眩しい所とか)で途端にボロボロになるのは嫌だったからです。

 

 しかし目に頼らずに、手探りしながら聴いて覚えるというのは耳(音感)にとっても目覚ましい向上につながりました。最初は外してばかりですが、それでもめげずに続けているといつしか大幅には外さなくなり、外したとしても即座に気づいて次にその音を弾く時に微調整して正したりできるようになってきました。

 試行錯誤を繰り返しながら自分の体の感覚で音を覚えてしまうのです。これができてくると楽器との一体感が強くなり、弾いていてとても気持ち良く楽しくなってきます。パソコンのキーボードも最初は一字ずつ探しながらたどたどしく打っていたのが、慣れてしまえば手元も見ずに頭の中の文章を次々と打ち込んでいけるようになるのと同じようなものでしょう。そう言われるとたしかに慣れの問題で、何とかなりそうだと思えてきませんか。

 

Q. 他にどういう所がギターと違うの?

 A. 私としては楽器的に得意とする調がギターと逆なのが新鮮でした。私が採用しているアラブ調律の場合、西洋音楽ではフラット系のキーが得意で、シャープ系が苦手です。(調弦は下からCFADGCF or DGADGCF)苦手調号も1個くらいならそのまま問題なく弾くことが多いですが、2個ついているともう移調したくなります(笑)。フラットの方なら3個、何なら4個ついているウード用の楽譜も珍しくありません。

 それから豊かな音色で弾ける音域がギターよりもかなり狭くなっています。6コースウードの場合最高コースが C4 で、快適に弾けるのは7フレット辺りまでですからせいぜい G4 から C5 くらいまででしょうか。しかしこのような高い音は響きが芳しくなく、楽器として安定して美しく鳴るのはギターでいうローポジション程度の音域です。これはネックが短いから音域が限られてしまっているとも言えますし、逆にだからこそ取り回しやすく弾きやすいとも言えるでしょう。

 

 音色や音域の違いがよくわかる動画です。ギターとウードのデュオでフラメンコの Bulerías を弾いています。二人の掛け合いがかっこよく、まさにそれぞれ楽器の特徴がよく出ています。

 

 もう1曲素晴らしい動画を紹介させてください。イラクのウード奏者 Naseer Shamma 作曲の Granada という曲です。このような郷愁を歌わせたらギターの右に出るものはいません。そこに人情的な揺らぎを得意とするウードが絶妙な味わいを聴かせてくれます。

私のウードについて

f:id:SolitOUD:20200224154514j:plain

使用木材

 ボディ:ウェンジ+メイプル(装飾)
 ペグ:ローズウッド
 ナット:ボーン
 ブリッジ:エボニー
 表面板:イングルマンスプルース 5Aグレード
 指板:エボニー
 仕上げ:フレンチポリッシュ(表面板は無塗装)

 

 楽器の素材としてのウェンジはブラジリアンローズウッドに近い音色を持つそうです(参照元)。ローズウッドと言えばくっきりとした芯のあるサウンドというイメージがあるのですが、私のウードからはそのような硬さは感じられません。

 どちらかと言えば優しく穏やかな明るさを持ったこの音色は、表面板の影響が強いのかもしれません。検索してみるとイングルマンスプルースは「柔らかく繊細な音」との意見が多く見られます。

 

参考までにシンプルな音階のみですが録音してみました。
"Hijaz (D E♭ F# G A B♭ C D)", "Bayati (D Ehalf♭ F G A B♭ C D)", "F major"
調弦は下から DGADGCF、音の加工は何もしていません。

 

 

f:id:SolitOUD:20200224173245j:plain

 フレンチポリッシュとはシェラック塗装のタンポ塗りのことですが、どうやら部位によって被膜の厚さを変えているようなのです。ペグボックスの塗装は厚めに、逆にボディ背面は極限まで薄くしているであろうことが手触りやツヤ感の違いからわかります。

 全体的に鳴りの良さを重視した設計になっているようです。(その分大変デリケートで丁寧な取り扱いが必要です。一度、手を洗いハンドクリームを塗ってそう間をおかないうちに表面板に触れてしまい、僅かにクリームの油脂分が染みてしまった箇所があります反省)

 

f:id:SolitOUD:20200224173711j:plain

サイズ

 弦長:585mm、7コース
 指板幅(ナット):43mm
 指板幅(ボディとの接合部):60mm
 ボディ幅(最大部):約360mm
 ボディ深さ(最深部):約190mm

 

 イランの製作者によるウードですが、規格としてはトルコウードに似ています。(弦長、サウンドホールの形状、薄くて無塗装の表面板等。)このタイプの表面板の特徴は抜けの良い明るい高音が得られることです。言い換えると「渋さ」こそがウードの魅力だと感じる方はアラブウードの方が合うでしょう。

 弦長は短くても7コースのためネックが太く、ボディも平均より大きいようで正直弾きやすいとは全く言えません。左手親指は常にフックのように曲げてネックにかけているのが正しい弾き方ですが、指を伸ばし気味にただ添えるだけになりがちです。これは7コースを愛用しているプロの方でも見られますから仕方がないことのようです。

 もしウードを弾く目的が地域を問わず伝統的な音楽やタクシーム(即興)のためだという方は迷わず6コースのものを選んでください。7コースでは見た目にも美しい理想的な奏法をそのまま再現することが非常に難しくなります。

 

f:id:SolitOUD:20200224174347j:plain

入手先他

 製作者:Masoud Agha Mohammadi 【イラン】
 販売者:Oriental Instrument 【オランダにあるイラン楽器専門店】

 

 サウンドホールに彫られているのは製作者のお名前(ペルシャ語)だそうです。この方によるウードはとりわけ反響、共鳴音が美しいのです。上記リンクの試奏動画でもあまり音数を詰め込まずに響きを活かすような弾き方をされている方が多いですね。

 販売サイトの店主さんは実は他に本業がおありです。最高品質の楽器を世界に届けたい一心で、楽器店は完全に趣味として運営されているとのことです。とはいえ祖国の楽器に対して心からの愛情と誇りをお持ちで、事務手続きも梱包もとても丁寧な方でした。確かな品質の楽器を信頼できるショップから購入したいと言う方に、自信を持っておすすめできるお店です。

 

このブログについて

はじめまして

 趣味で中東の弦楽器、ウードを楽しんでいます。音域は広くてもその大きさのため弾きこなすのが難しい7コース1本のみを愛用中。少しですがクラシックギターの経験もあるため、ウードに転向してからも西洋音楽等も積極的に弾いています。


なぜまたウード?

 この楽器そのものに強い魅力を感じて始めました。美しい見た目と少し低めで心地よい音域、驚くほどの共鳴・反響音、そしてフレットがないことによる多彩な表現力。ウードといえばまず中東音楽ではありますが、私としては「こんな素敵な楽器を中東音楽のためだけのものにしておくのはもったいない、あんな曲やこんな曲も弾いてみたい!」という思いが強かったのです。

 とは言えウードを手にしておきながら「あれもこれも弾くけどアラブ音楽はサッパリです」というのも残念な話ですから(笑)ウード教室にもしばらく通いました。


様々なウードの演奏スタイル

 しかしゆらゆらと揺さぶりかけながら展開していく妖艶で濃密なアラブウードの世界観がもうひとつ肌に合わず、8ヶ月ほどで教室を離れました。とはいえトルコの方のウードも、息つく暇さえ与えない勢いで装飾を詰め込んでいく目まぐるしさに馴染めません。
 もっと落ち着いて音を聴かせながら、適度なスパイスのようにピリっと小技を効かせていけたらと思っていたところ、私のウードが生まれたイランではまさにそのように演奏されていることに気づきました。

 そういうわけで今は、イランの講師や教本から“楽器自体の演奏法”を学んでいます。それと同時に西洋の「あんな曲やこんな曲」をぜひこのウードで弾きたい!という熱意を受け入れてくださったクラシックギタリストの教室にて“音楽そのものの演奏法”を習っています。


“SolitOUD”

 ウードを手にしている他の方々とは音楽の好みや感覚がなかなか合わず、しかしもちろんギター教室でも完全に異色の存在です。そういう意味で孤立した(Solitude)ウード(OUD)愛好者です。
 でもまさにこの“コ”(楽器の個体としてのこのウード+私の個人的な好みによる選曲)の音色が好きなんです。「できるようになるのかどうか」とか「受け入れられるのかどうか」とか始める前からあれこれ考えず、「そんなのわからないけどやってみたい」「やりたいからやる!」単純にそれだけ(Solid)なんです、という意味も含めています。

 日本ではまだまだめずらしい楽器、ウード。その可能性を探る軌跡を記録に残しながら、この楽器に興味を持たれた方に少しでも何かのお役に立てるような記事を書けたらと思います。どうぞよろしくお願いします。